6月、思い出の味のひとつが遠ざかる

建設システム工学科 渡部昌弘

6月6日、広島県尾道市内にある、某老舗中華ソバ店が無期限休業に入るというニュース記事を見てしまった。寝耳に水とはこのこと。我が家では、というか特に尾道で青春時代を過ごした父にとっては、老齢期に起きた一大事である。私にとっても実家の家族にとっても思い出の味であり、SMSにそのネット記事の概要や休業の理由などが飛び交い、皆大きな喪失感を感じたものである。

その中華ソバ店・朱華園(しゅうかえん)は、我が家では、というか地元の人たちも「シュウさん」と呼んでおり、ラーメンの特徴は、大量の背脂と甘みを感じるが喉がむせるくらいの濃いめの醤油スープ、細く平たいがモチモチとしたストレート麺といったもので、尾道ラーメンの原初とも言われている。もっとも知名度が上がったのはある作家が雑誌で紹介したためということらしく、その記事の該当部分を抜粋した銘板が飾ってあった。

初めて食べたのは、小学校高学年の頃に法事で尾道に行ったときであったと記憶している。当時から行列ができており、(中華料理店みたいなものはともかく)ラーメン店自体行った記憶がなかった上に、更に並んでまで食べた初めてのラーメンであった。ところが、子どもが食べるにしては、粗漉しで(というか漉していたのかよく分からないくらい大きい)塊感のあるそこそこマッシブな背脂が地味に重く感じられ、味も濃いことから「スープは飲んだらダメ」とか言われていたような記憶もある。結局飲んだけども。

その後、高校以降も家族旅行で(というか父方の親戚に会いに)尾道に遊びに行ったときに何度か店舗で食べたのだが、年齢を重ねる毎に旨さに気づいていった。といっても体重が52kg前後で推移していた20代半ばまでは、食が相当に細く、身の回りの出来事などもあって脂がかなり重たかったと記憶している。振り返ってみると、人生の様々な局面を思い出させるキーアイテムのようにも感じる。

さほど頻繁に尾道には行っていなかったが、年1、2回くらいのペースで親戚から持ち帰りセットを送ってもらっていた。あるときは、そのスープ、麺、具材を使って、お替わり代わりに家族で市販の麺を替え玉にしてどれが合うか等々試したりもした。縮れ麺や中太麺、細麺等々試したが、中々合うものがなく、組合せの妙に家族一同感心した(もはやスープを消費するだけのマラソンのような気もしたが)。ある時期は、しばらく実家の年越しソバとして存在感があった。(※地方配送はなく、持ち帰りセットがあり、地方発送は客自身が勝手にする、ということだったらしい)

以上が、その「朱華園閉店」で思い浮かべたことである。書いているソバから口の中で味が再現されてしまっている。これは歯がゆい。

思い出の味というのは、人生の中に何種類もあると思う。特に、誰かと話題を共有できる味や風味というのは、実際には味以上のことを思い出すことが多く、様々な記憶、心情が想起される。朱華園の中華ソバは、ソウルフードと言うには、まだまだ食べ足りない気がしており、休業は残念である。もし再開することがあれば、家族で是非行きたいと思う。

以上、建設システム工学科 渡部でした。

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